時折報道される税金の無駄遣い。1人当たりの金額は?追徴税額とどちらが多い?
税金の無駄遣いの報道を見聞きすると、さも自ら大金を失ったかのごとく怒りの気持ちを持つ方もおられるのではないでしょうか。なかには「税金を払いたくない」と思う方もいることでしょう。 その気持ちは理解できますが、税金は「自ら払ったお金によって、自分一人ではできないことを行政に行ってもらう」という側面もあります。このため「一方的に取られる」という被害者意識を持つのではなく、納税者としての当事者意識が必要です。無駄遣いの報道を見たら、「一人当たりいくらの無駄遣いなのか?」を考えることも重要です。 本記事では所得税を例にとって、どのくらいの無駄遣いが起きているのか考えていきます。
近年の無駄遣いはいくら?
所得税の無駄遣いは会計検査院により公表されており、以下の通り「指摘金額」に該当する金額が対象となります。 指摘金額とは、租税や社会保険料等の徴収不足額、工事や物品調達等に係る過大な支出額、補助金等の過大交付額、管理が適切に行われていない債権等の額、有効に活用されていない資産等の額、計算書や財務諸表等に適切に表示されていなかった資産等の額等です。
引用元:会計検査院「指摘金額と背景金額」
毎年公表されている「決算検査報告」の「検査結果の大要」における「指摘金額の総計」項目に記載された金額が、無駄遣いに該当します。2012年以降に公表された指摘金額は、以下の通りです。
会計年度 | 指摘金額(円) |
2012 | 4907億4510万円 |
2013 | 2831億7398万円 |
2014 | 1568億6701万円 |
2015 | 1兆2189億4132万円 |
2016 | 874億4130万円 |
2017 | 1156億9880万円 |
2018 | 1002億3058万円 |
2019 | 297億2193万円 |
年によって大きく異なりますが、少ない年でも約300億円、多い年は1兆2000億円を超える指摘金額となっています。2015年度の1兆2189億円という金額は、名古屋市の一般会計予算とほぼ同じです。日本を代表する大都市を運営できるだけの金額を無駄にしたことは、憂慮すべき事態といえるでしょう。
1人当たり、どのくらいの無駄遣いが起きている?
さきほど紹介した金額は、大きすぎてピンとこない方もいるかもしれません。1人当たりの金額に直すと、イメージしやすくなる方も多いでしょう。 2015年に実施された国勢調査によると、20歳以上の人口はおよそ1億375万人です。ここでは1億人として、1人当たりの無駄遣い額を以下に示します。
会計年度 | 1人当たりの指摘金額 |
2012 | 4,907円 |
2013 | 2,832円 |
2014 | 1,569円 |
2015 | 12,189円 |
2016 | 874円 |
2017 | 1,157円 |
2018 | 1,002円 |
2019 | 297円 |
1,600円以下となっている年が多いものの、なかには12,000円を超えている年もあります。年間とはいえ数千円から1万円台ともなると、無視できる額とはいえません。
「せっかく苦労して払った税金なのに、こんなに無駄遣いされているとは。その分割り引いてくれれば、欲しい物ももっと買えるのに」このような思いを持った方も、少なくないことでしょう。
国税庁による追徴税額と、どちらが多い?
私たちは税を正しく納めないと税務当局によって調査を受け、追徴される場合もおおいにあります。所得税・消費税の追徴税額と無駄遣いは、どちらが多いのでしょうか。
所得税の確定申告期限が3月15日という点も踏まえると、両者を比較する際には「当年度に集めた税金を翌年度で使う」と考えることが自然です。たとえば「2015事務年度で徴収した税金を、2016会計年度で使う」といったようになります。
上記を踏まえて比較すると、以下のようになります。
事務年度 | 所得税・消費税の追徴税額(億円) | 翌年度の指摘金額(億円) |
2011 | 1,162 | 4,907 |
2012 | 1,001 | 2,832 |
2013 | 1,020 | 1,569 |
2014 | 1,008 | 12,189 |
2015 | 1.074 | 874 |
2016 | 1,112 | 1,157 |
2017 | 1,196 | 1,002 |
2018 | 1,195 | 297 |
上記の通り、追徴税額よりも無駄遣いのほうが多額にのぼる年が複数あります。これは憂慮すべき事態です。放置していると「庶民から税を追徴するよりも、国の無駄遣いをなくしたほうが効果的」と思われるなど、税の徴収に関する信頼を失う可能性も否定できません。 税金の無駄遣いは、決して無視できる額ではないことがおわかりいただけたことでしょう。私たちが納めた税金を無駄にしないためにも、税の使いみちについて関心を持つことが重要です。また税を正しく納めてもらうためには、政府が税の適正な支出を行い、指摘金額を減らして国民の信頼を得ることが欠かせません。