株式投資と税金~「損益通算」「損失繰越」を知らない人はなぜ多いのか

株式投資で損失を出した場合でも確定申告をして損益通算や損失繰越をすれば税負担を軽減できる場合があります。税金の払戻しを受ければ手元資金が増えるので、株式投資で資産を増やそうとしている人にとって欠かせない知識の一つです。

しかし実際には損益通算や損失繰越を知らない人が少なくありません。株式投資が身近なものとして社会に浸透する中、必要な知識が十分に広まっていない現状を紹介します。

損益通算・損失繰越の仕組み

証券口座の種類を「特定口座・源泉徴収あり」にしていれば、証券会社が納税を行うので投資家本人が確定申告を行う必要はありません。仮に同じ証券口座内で2回取引して+10万円と▲8万円だった場合でも、証券会社が両取引の損益を通算して2万円に課税されます。

しかし例えばA証券の口座で+10万円、B証券の口座で▲8万円の取引をしたケースでは、異なる証券会社の間で情報共有されたり自動的に損益が通算されるわけではありません。A証券では10万円×税率20.315%だけ税金が源泉徴収されてしまうので、多く徴収された8万円×税率20.315%の払戻しを受けるには損益通算の手続き、つまり確定申告が必要です。

損益通算は1年間の「株の譲渡益と譲渡損」だけでなく「株の譲渡損と配当所得」の間でも適用でき、通算しても引き切れない損失があれば翌年以降3年間繰り越せます。これが株式投資の損失繰越で、翌年以降に黒字だと繰り越していた損失と相殺できて税負担が軽くなる仕組みです。

株式投資では安定して利益を出せるようになるまでに時間がかかることが多く、最初のうちは年間の取引実績がマイナスになることも珍しくありません。そのため株式投資をする人にとって損益通算や損失繰越は欠かせない知識です。

損益通算・損失繰越を両方とも知らない人が約4割

しかし日本証券業協会が行った調査結果からは、損益通算や損失繰越を知らない投資家が思いのほか多いことが分かります。この調査はサンプル調査で母数は5千と決して多くない点に注意が必要ですが、両方とも知らない人が4割近くいる状況です。

<棒グラフ>

そもそも株の取引を普段する中では損益通算や損失繰越を知る機会があまりありません。株式投資の初心者が初めて見るチャートの見方が分からず自分で調べることはあっても、同じく必須知識である損益通算・損失繰越は目にする機会自体がなく、自分が何の知識を分かっていないのかも分からないままになりがちです。

年収が低い層ほど損益通算・損失繰越を知らない人が多い

さらに日本証券業協会の調査からは、年収が低い層ほど損益通算・損失繰越を知らない人が多いことが示されています。年収300万円未満の層では特にその割合が高く、約半数の46.6%の人が「損益通算・損失繰越を両方とも知らない」と回答しました。

<棒グラフ>

出所:日本証券業協会「個人投資家の証券投資に関する意識調査2019」をもとに作成

このような傾向が生じる理由は明確ではありませんが、年収が高い人は株式投資以外の他の投資経験も既にあり、税務知識も含めた投資知識が身に付いていることが考えられます。
そして協会の調査からは年収が低い人ほど損失を出す割合が高いという結果も出ていて、2018年1年間の取引実績は年収別に以下の通りです。

<棒グラフ>

出所:日本証券業協会「個人投資家の証券投資に関する意識調査2019」をもとに作成

上記のグラフの「50万円未満の売却損が出た人」から「500万円以上の売却損が出た人」までの割合を合計して「年間の取引実績がマイナスだった人の割合」を計算し、「損益通算・損失繰越を両方とも知らない人の割合」を並べて記載すると以下のようになります。

年収 300万円未満 〜500万円未満 〜700万円未満 〜1000万円未満 1000万円以上
売却損が出た人の割合 18.6 17.1 15.9 12.0 13.9
損益通算・損益繰越を両方とも知らない人の割合 46.6 37.0 33.7 30.4 23.0

一般的に株式投資では手元資金が多いほど精神的に余裕を持って取引ができると言われ、逆に投資資金が少ない人は心理面で余裕がなくなりがちです。年収が低くて投資資金が少ない人の場合は、冷静さを失って損失を出したり拡大させる確率が相対的に高くなります。
そして本来はこのように損失を出しやすい傾向にある人ほど損益通算・損失繰越を理解しておくべきですが、現実は逆でそういった人ほど必要な税務知識が身に付いていません。
日常の世界とは違う知識や視点・感覚が求められる株式投資の世界では「自分が何を分かっていないのかも分かっていない」状態に陥りやすいので、自分に不足している知識がないかどうか常に確認する意識を持つことが大切です。

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