法務局による遺言書の保管制度~未成年の子がいる世帯でも活用したい新制度がスタート

遺言書を作成する場合、これまでは自筆証書遺言書を書いて自宅などで保管するか公正証書遺言書を公証役場で作成して保管してもらうのが主な方法でした。そこに新たな選択肢として登場したのが、2020年7月に開始した「法務局による遺言書の保管制度」です。
遺言書を作成する高齢世帯が増えて遺言書の活用が促進されれば、相続トラブルの防止や減少に役立つことが期待されます。今回スタートした新制度は20代や30代など若い世代にもメリットがあるため、制度の仕組みや意義を理解してうまく活用したい制度です。

万が一に備えるなら保険への加入だけでなく遺言書の作成も大事

遺言書は高齢の人が書くものと思われがちで、若い世代が遺言書を書くことは決して多くありません。しかし自分に何かあっても残された配偶者や子が困らないように死亡保障保険に入ることが多い世代にとって、保険と同じく活用の余地があるのが遺言書です。
遺言書がないケースでは、遺産をどう分けるのかを相続人全員で話し合う遺産分割協議を行い、相続人に未成年者がいる場合には親などの法定代理人が協議に参加します。しかし親も相続人だと利益相反になって代理ができず、特別代理人を選任しなければいけません。
手間も時間もかかる様々な相続手続きに加えて、裁判所で選任手続きまで必要になると遺族の負担が増えて大変です。親なのに子の代わりに手続きできないことに、配偶者が辛さを感じて心理的負担が増すこともあります。しかし遺言書で遺産の分割方法を決めておけば、遺産分割協議が不要になって余計な負担はかかりません。
自分の死後の配偶者と子の生活を考える場合、一家の稼ぎ手が死亡保障保険に加入するだけでなく、相続手続きを早く終えられるように遺言書の作成も検討すべき事項の一つです。

遺言書や保険の活用状況

ただ、遺言書の利用件数を見ると、全世代を合わせても決して多くありません。

  平成23年 平成24年 平成25年 平成26年 平成27年 平成28年 平成29年 平成30年
自筆証書遺言書の検認件数 16,507件 17,321件 18,058件 18,248件 18,376件 18,637件 18,914件 18,920件
公正証書遺言書の作成件数 78,754件 88,156件 96,026件 104,490件 110,778件 105,350件 110,191件 110,471件

出所:日本公証人連合会HP・裁判所HP


相続が起きたときに裁判所で自筆証書遺言書をチェックする検認が行われた件数は約1.8万件で、近年の年間死亡者数約136万人に対して僅か1%程度です。自筆証書遺言書は主に自宅で保管するため紛失や偽造のリスクがあり、あまり活用されていません。

また、公正証書遺言書の作成数は増加していますが、そもそも公正証書遺言書は作成や作り直しに手間がかかり、若い世代には向かない制度です。財産状況が変化しにくく遺言書の作り直しが少ない一定年齢以上の層で、公正証書遺言書の作成が増えていると考えられます。
一方で保険の加入状況を見ると、平成30年の新契約1,563万件の内訳は以下の通りです。18.9%を占める30代では約295万件の新契約があり、その他55.5%を除く終身・定期・養老の保険契約だけで約131万件の保険加入がありました。

出所:生命保険協会HP


もちろん同じ人が複数の契約に入るケースもあるため、単純に30代の人口約1,463万人の1割弱が死亡保障性の保険に加入したわけではありません。ただそれでも遺言書に比べれば圧倒的に件数が多く、保険が若い世代に浸透していることは確かです。

保険の場合は生保各社や生保業界の存在が大きく、民間レベルで行われる宣伝活動・営業活動が保険の普及に大きな役割を果たしています。逆に民間レベルで活用を促す巨大な業界や企業がなく、その意義やメリットが社会全体に浸透しにくいのが遺言書制度です。


ただ、一家の稼ぎ手にもしものことがあった場合に備える点で死亡保障保険も遺言書も変わりません。新制度のスタートを機に遺言書の意義や活用法を再確認し、従来の制度のデメリットを補う形で登場した新制度の仕組みやメリットを正しく理解することが大切です。

新制度は手数料が安くて利用しやすく、検認が不要で手続き負担も少ない

今回開始した新制度は、これまで主に自宅で保管していた自筆証書遺言書を法務局で保管できる制度です。手数料は遺言書1通につき3,900円と安くて利用しやすくなっています。
今までの自筆証書遺言書では相続開始後に形式不備が発覚して無効になるケースがあり、このリスクを無くすには費用と手間をかけて公正証書遺言書を作る必要がありました。新制度では遺言書を法務局に預ける際に形式不備がないか確認してもらえるので、公正証書遺言書より安い費用で無効化リスクを回避できます。
さらに法務局で保管すれば紛失のリスクがなくなり裁判所での検認も不要です。従来の自筆証書遺言書のように検認に1カ月程かかることはありません。遺族はスムーズに相続手続きを進められます。
公正証書遺言書のような出張作成制度がなく、寝たきりの高齢者などが利用できない点は新制度のデメリットですが、遺言書を作る側も受け取る側も負担が少なくて済む制度です。万が一への備えとして、遺言書の活用が今まで以上に促進されることが期待されます。

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