相続対策における信託の活⽤状況と今後の展望

相続対策における信託の利⽤状況

相続対策として利⽤されている⾦融機関の信託商品としては、まず遺⾔代⽤信託があります。遺⾔代⽤信託は、2009 年度から取り扱いが始まっており、それ以降の新規受託件数の推移は【図 1】のとおりです。信託銀⾏などを中⼼にラインアップが充実してきた 2012 年度から新規受託件数が急激に増加して、2015 年の相続税の課税強化などを控えて 2013 年度には 4 万 5000 件あまりを受託しています。その後の取り扱い件数は落ち着きをみせていますが、地⽅銀⾏などでも参⼊が相次いだこともあり、2016 年度以降も年間 1 万件台で安定して推移しており、直近の 2019 年 9 ⽉末時点で累計約 17 万 5000 件を受託しています。 

出所:⼀般社団法⼈信託協会 統計データより

また、⾦融機関などが受託者となるいわゆる商事信託ではなく、財産の所有者の家族や親族など信頼できる⼈が受託者となり、財産の管理や承継を⾏う⺠事信託(家族信託)の利⽤も徐々に広がりをみせています。公式な統計情報がなく、正確な利⽤件数は把握できないものの、⽇本公証⼈連合会の調べによると 2018 年における⺠事信託の公正証書の作成件数は 2,223 件であり、2019 年の 1〜6 ⽉は対前年⽐で 22%増加しているということです。⺠事信託における公正証書作成は義務ではなく、総数はさらに多いとみられます。 

相続対策における信託活⽤の⾒通し

国⽴社会保障・⼈⼝問題研究所の推計によると⾼齢化率(65 歳以上の⾼齢者が全⼈⼝に占める割合)は2025 年に 30.0%、2040 年には 35.3%になると⾒込まれています。超⾼齢化社会を⽬前に控えて、⾼齢者の財産管理のための制度的枠組みの充実、確⽴が喫緊の課題といえるでしょう。従来から「成年後⾒制度(法定後⾒)」がありますが、利⽤者数は 2018 年 12 ⽉末時点で 22 万⼈弱程度にとどまっており、少しずつ増加しているものの利⽤者の伸びは鈍いといえます(【図 2 参照】)。その背景として、成年後⾒制度は⾼齢者の判断能⼒が低下してから事後的に利⽤する制度であり、かつ財産の機動的な運⽤ができないなど、利便性に⽋ける⾯があることが指摘されています。 

そこで信託を利⽤した相続対策が注⽬されています。信託の場合は、本⼈の判断能⼒がある段階で財産の管理・承継⽅法を決めることができ、親から⼦、⼦から孫と数世代にわたる承継計画も定められるなど、従来の制度ではなし得なかったことが実現できるからです。特に⾦融機関が介在しない⺠事信託については、本⼈の希望や⽬的に応じて、オーダーメイドで様々なアレンジが可能であり、⾃由度が⾮常に⾼いといったメリットがあるため、今後、利⽤は増加していく可能性が⾼いといえます。 

ただし、⺠事信託は、現時点において事例の蓄積が不⼗分であり、制度として未成熟であるといった課題があります。例えば、受益権が特定の⼈に集中するような信託契約が締結され、遺留分の侵害により他の相続⼈から遺留分減殺請求を受けたり、信託契約⾃体が無効になるという場合があります。また、他の相続⼈が信託契約の締結について知らされていないなど、相続⼈間のトラブルにつながるような例もあります。信託のスキームを組成する弁護⼠などの専⾨家においても取り組み⽅法が成熟していないというのが現状です。 

法的な論点や運⽤⾯に関する事例を蓄積して、課題をクリアすることで、制度としての信頼を⾼めていくことが、今後、⺠事信託が普及するかどうかのポイントになるかと思われます。 

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